物語文では、さまざまな文章に触れて感性を磨くことが大切である。
論理的に読む適切なトレーニングを積むことで一定の線まで読解力をつけられるが、それでもなお小学生の場合、経験値の不足から物語文の心情を理解できないことが多い。素材文の内容によっては点数がガタ落ちするのだ。
ここが攻略ポイントの一つとなるので、余力があるなら読書をして間接的な経験を積む(本の世界の中で疑似体験する)ことで感性を磨くのが有効な対策となり得る。
読書で成績は上がらないという通説がある一方で、本好きで国語の成績で苦労しないお子様がいるという反面の事実が存在するのは、こういったところから生じているのである。
物語文/推薦・課題図書
瀬尾まいこ氏の2012年の作品、『あと少し、もう少し』は、2014年度入試で第2位、品川女子学院中等部をはじめ複数校で出題されています。2020年度入試でも同氏の作品の出題は続くと思われます。
2019年度入試で最も多く採用された素材文です。マレーシアの日本人学校から帰国した花岡沙弥は、佐藤先輩から吟行(短歌を詠みに出かけること)のパートナーに選ばれ、短歌を詠む楽しさを知るようになりますが、その佐藤先輩がみんなから「督促女王」という変なあだ名で呼ばれる変わった人であるため、クラスメイトの前で彼女との関係を否定する発言をし、佐藤先輩は傷ついてしまいます。
マレーシアから帰国して以来、人目を気にしてしまい、海外で暮らしていた時のようなのびやかな心を持つことができなくなった自分と向き合い、佐藤先輩に謝ろうと思いを一首の短歌に託します。
栄光学園、海城、早稲田実業などの多数の有名中が出題。特に海城・早実の両校は同じ場面を切り出しています。
2015年度入試の物語文の出題ランキングで1位です。クラスメイト24人一人ひとりを主人公にしてえがく斬新性から出題者の目に留まりやすく、今後も出題が続く可能性のある素材文です。
重松清の作。3.11が背景にあり、重松氏の独特のあのテイストを重ねた世界観が構築されています。2014年度では桐朋中学校が出題、2015年度以降の入試においても出題される可能性がある素材と言えるでしょう。
2018年12月の第四回サピックスオープンに出題されています。もともとは「飛ぶ教室」に連載されていた人気小説で、六人の主人公を交替させながらストーリーがつながっていきます。
その他のおすすめ図書
泣くのをがまんしている人のところに流れていく――「なみだの穴」を共通テーマとした6つのストーリー
(なみだの穴・ぼくらの歩幅・パワースイーツ・妖精の家・最後の気持ち・なみだの捨て場所)から構成。
6つストーリーには一つの約束事があるので、他の物語では味わえない読書感がある。
第一話「なみだの穴」は、第七回海洋文学大賞 海の子供文学賞部門佳作受賞作品です。2015年度のサピックスのマンスリーテストにも出題。各話ともに読書感想文を書きやすいと思いますので、課題図書の指定がなく、自己選択の場合に本書がおすすめです。
ロケットの発射場のある島の小学校の「宇宙遊学生」として、一年間の小学校生活を送る天羽駆たちの成長物語。独特な舞台設定であることや宇宙にまつわる専門用語が含まれることから、高学年向けでしょうか。マニアックな要素がある分、読書好きな子には存分楽しめるストーリーです。
『リョウ&ナオ 』
(川端裕人 著/光村図書)
『今ここにいる僕らは』などのヒット作で名を馳せた川端裕人の最新作。
「飛ぶ教室」に連載された冒険ストーリーが単行本化された話題の書。
受験という日常(「ロボット・マーチ」の章)から、非日常の冒険へと鮮やかに切り替え、世界の未踏の地を舞台に主人公・リョウの活躍と心の成長がえがかれています。
舞台は「B島・オランウータンの森」から「未開国・Nの牧草地帯」まで、脳裏に描かれる情景の美しさとめまぐるしく変化する壮大な世界観には息をのむでしょう。
冒険の擬似体験もできるので、読書好きならずとも読んでみたい一冊。